『いつもと違う』の裏にあるもの。認知症だけではない、混乱と見当識の乱れ

「今日は何日だったかな」
「ここはどこ?」
「この人は、誰だったかな」

時間や場所、人との関係が分かりにくくなることを、医療では見当識の乱れと呼びます。

こうした変化があると、まず認知症を思い浮かべるかもしれません。もちろん認知症が背景にあることもあります。けれど、見当識の乱れは認知症だけで起こるものではありません。

感染、脱水、薬の影響、糖尿病や肝臓の病気など、身体の急な不調が「いつもと違う」という形で現れることがあります。特に、数時間から数日のうちに急に混乱が出た場合は、認知症とは別の原因を考える必要があります。

見当識の乱れを起こす、さまざまな背景

脳そのものの病気

認知症は、少しずつ物忘れや判断の難しさが重なっていくことが多い病気です。

一方で、脳梗塞や脳出血、てんかん発作のあとなどでは、急に言葉が出にくくなったり、周囲の状況が分からなくなったりすることがあります。

「昨日までは普通に話せていたのに、急に会話が噛み合わない」という変化は、特に注意が必要です。

身体の急な不調

肺炎や尿路感染症などの感染、脱水、貧血、低酸素、薬の影響などは、意識や注意力を揺らすことがあります。

こうした急な混乱は、せん妄と呼ばれる状態のことがあります。ぼんやりする、つじつまの合わない話をする、昼と夜が逆転する、夕方になると落ち着かなくなる、時間や場所が分からなくなる、といった形で現れることがあります。状態が一日の中で大きく変わることも、せん妄の特徴です。

糖尿病でも、低血糖や著しい高血糖によって意識がはっきりしなくなることがあります。肝臓の働きが大きく低下した場合には、肝性脳症として、性格や行動、認知機能、意識の変化が現れることがあります。

だからこそ、「年齢のせい」「認知症だから」と決めつけず、発熱、咳、食事や水分の量、尿や便の変化、眠り方、薬の変更などを一緒に見ていくことが大切です。

薬や治療の影響

睡眠薬、抗不安薬、痛み止めなどは、体調や飲み合わせによっては、ぼんやりしたり、ふらついたり、混乱につながったりすることがあります。

飲み忘れだけでなく、自己判断での増量、複数の医療機関から出ている薬の重なりも確認が必要です。

薬が悪いという話ではありません。けれど、いつもと違う変化があった時には、「最近、薬は変わっていないか」も大事な確認項目です。

こころの病気と重なる時

双極症、うつ病、統合失調症などがある方では、気分や考え方、睡眠、行動に大きな揺れが出ることがあります。

双極症では、躁状態やうつ状態が強い時に、考えをまとめたり、判断したりすることが難しくなる場合があります。けれど、精神科の病気があることは、身体の病気が起こらないという意味ではありません。

「いつもの状態が悪くなっただけ」と見えても、そこに感染、脱水、低血糖、薬の副作用などが重なっていることがあります。

精神の病気か、身体の病気か。
その二択に急がないことが大切です。

ホルモンと、人生の時期の変化

月経、更年期、妊娠、産後など、女性の身体はホルモンの変化とともに、睡眠、食事、気分、集中しやすさが揺れることがあります。

「頭が回らない」「言葉が出にくい」「いつもよりぼんやりする」という訴えの背景に、こうした時期の変化があることもあります。

ただし、急に時間や場所が分からなくなった、会話が成り立たない、けいれんがある、強い頭痛や見え方の異常がある場合は、「ホルモンのせい」と片づけないことが必要です。妊娠中から産後にかけては、妊娠高血圧症候群など、早めの医療相談が必要になる状態もあります。

認知症と、急な混乱の違い

認知症は、多くの場合、時間をかけて少しずつ生活の中に変化が現れます。

一方で、せん妄などの急な混乱は、数時間から数日で起こり、一日の中でも良くなったり悪くなったりします。

認知症がある方にも、感染や脱水をきっかけにせん妄が重なることがあります。

大切なのは診断名を当てることではなく、普段と比べて何が、いつから、どのように変わったかを見ることです。

家で気づいた時に、ご家族ができること

混乱している方に、何度も正解を尋ねたり、間違いを強く訂正したりすると、本人はさらに不安になることがあります。

「大丈夫ですよ」
「いまは家にいますよ」
「一緒に確認しましょうか」

そんなふうに、短く、ゆっくり、穏やかに声をかけることが助けになります。時計やカレンダー、眼鏡、補聴器、見慣れた写真なども、安心につながることがあります。

そして、医療者に伝えるために、次のことをメモしておくと役立ちます。

  • いつから変化が始まったか
  • どんな言動や様子が、普段と違うのか
  • 食事、水分、睡眠、排便、排尿の状況
  • 熱、咳、痛み、息苦しさなどの有無
  • 最近変わった薬、飲み忘れや飲み間違いの有無

迷った時は、早めに連絡を

急にろれつが回らない。
片方の手足に力が入りにくい。
顔の片側がゆがむ。
急な激しい頭痛がある。
意識がはっきりしない。
けいれんが起きた。
呼吸が苦しそう。

こうした場合は、脳卒中など緊急性の高い病気も考えられます。様子を見ず、救急要請を検討してください。

そこまでではなくても、「急に分からなくなった」「いつもの認知症や精神症状とは違う」と感じた時には、主治医や訪問看護師に早めに相談してください。

「いつもと違う」を、見逃さないために

混乱している時、本人にとっては世界の見え方そのものが変わっていることがあります。

だから私たちは、ただ答えを訂正するのではなく、その人の普段の暮らしを思い出します。
いつもならできること。
いつもなら言うこと。
いつもなら眠る時間。

そこから外れた小さな変化に、身体からのサインが隠れていることがあります。

認知症、こころの病気、更年期、妊娠、年齢。
ひとつの言葉で説明を急がず、まずは「何が起きているのか」を一緒に見ていく。

それが、家で暮らす時間を守るための看護だと、私たちは考えています。

※この記事は一般的な情報です。急な意識の変化や混乱がある場合は、自己判断せず、医療機関や訪問看護師にご相談ください。